「いたぞ!」

 巨大な鉄の錠前を吹き飛ばさんばかりの激しさで、重い木製の扉を押し開け、杖を構えた魔
法省の職員たちが法廷に入り込んできた。

「ミスター・ポッター! あなたの身柄を『国際魔法戦士連盟機密保持法』第十三条違反のかど
で拘束します!」

 たちまちハリーは職員たちによって、周囲を幾重にも囲まれてしまった。
「…これは一体どういうことか、説明していただけますか、ミスター…ハリー・ポッター」
 ぐしゃり、とガラスを踏みつける音と共にようやく立ち上がった尋問官が、冷ややかに言っ
た。
「申し訳ありません。エントランスで止めたのですが、まさか床を蹴破って逃げ出すとは思わず
…」
「逃げたわけじゃありません」
 尋問官に頭を下げる職員を遮り、ハリーは声を上げた。
「ただ…ちょっとした手違いで」
「手違い?」
 嘲るような口調で、即座に陪審員の一人が聞き返してくる。
「証人として呼ばれているって、僕、今日まで知らなかったんです。手違いで…手紙を読んでい
なくて」
「馬鹿な。我々は先週の段階で、貴殿から自筆の返答を受け取っている。それともあの返事は
誰かが勝手に書いたものだとでも?」
「調べれば分かると思いますけど、その通りです。僕は裁判に来るよう言われた手紙を読んで
なかったし、返事も書いていません。今日……ほんの二十分くらい前に裁判のことを知って、
急いでやってきたんです」
「白昼堂々、マグルの居住区の真上をおよそ八十kmにわたり、箒を使って」

 職員の一人から耳打ちされた尋問官が、皮肉たっぷりにハリーを見据えた。

「マグルに察知されないための策を何ひとつ取らず―――現段階でマグル連絡室には三百件
を越す目撃情報が寄せられている。忘却術士本部は出払って空っぽ…この分では誤報室にも
協力を要請するしかなさそうだ」
「不注意だったとは思います。だけど僕は魔法省への姿現し許可証を持ってないし、マグルの
やり方でここまで来ようとしたら、絶対に間に合わないと思って…」

 職員と尋問官、彼らの傍に集まってきた数名の陪審員たちは互いに耳打ちし合い、しばらく
ヒソヒソと話し合っている様子だった。チラリとドラコの方を見やると、被告人席とは名ばかり
の、まるで檻のような囲いの中で、彼は酷く不安げな表情をしていた。まだ刑が確定したわけ
でもないのに、見せ物じゃあるまいし、こんなに大勢の人々の前で罪人扱いするだなんて酷い
―――そっと柵の隙間から手を入れようとして、透明なバリアのようなものに阻まれ、思い出
す。
 さっき天井を破って降りてきたとき、自分が壊したステンドグラスの破片で、ドラコに怪我をさ
せてしまいそうだということに気付き、慌てて防御呪文をかけたのだった。幸い、被告人席の内
側には一片のガラスも見当たらないので、ドラコには怪我をさせずに済んだのだろう。
 こっそり取り出した杖を軽く振って、防御呪文を解除する。今度はすんなり柵の内側へ、手を
潜り込ませることができた。鎖に縛られたせいで、血が上手く通っていないドラコの手に触れる
と、条件反射のようにビクリ、と震えられた。それでももちろん、離したりなんかしない。
 ドラコの手は小さかった。前からこんなに小さかっただろうか。元から細かった指や手首も、
最後に握った時から比べて、一層やせ細ってしまった気がする。
 薄いアクアマリンの瞳が困惑だけを浮かべてハリーを見つめる。その視線の位置が、記憶の
中よりも少しだけ下に感じられる。自分の身長がこの一年でかなり伸びたという自覚はある
が、それに対しドラコはほとんど変わっていないんじゃないだろうか。ホグワーツを去った、あ
の頃から。
 少しでも安心させようと、ハリーは必死で笑顔を浮かべようとしたけれど、こけた頬や落ち窪
み、光の無い瞳を見ている内に、なんとも言えない―――哀しげな表情になってしまっていた
んじゃないかと思う。
 何か言おう、安心させてあげられる言葉を…そう思うものの、何ひとつ気の利いたことを口に
できず、ただドラコの手を握り締めるだけのハリーへ、職員の一人が咳払いをしてから告げ
た。
「ともかく上の箒規制管理課にてお話を伺います。こちらへどうぞ、ミスター・ポッター」

 ドラコを背中に、両手でかばうようにして立ち、ハリーは促す職員を睨みつけた。

「僕は魔法省へ証人として来たんだ。箒の規制についておしゃべりしたいわけじゃない」
「残念だがミスター・ポッター、貴殿はすでに証人としての資格を剥奪されている」
 屋根の落下に逃げ惑っていた人々はとっくにショックから立ち直り、法廷中の視線が今やハ
リーに注がれていた。戸惑い、驚き、そしてあからさまな好奇。魔法界の英雄が、前代未聞の
やり方で裁判を中断させるというのは、一生に一度お目にかかれるかどうか、という椿事だろ
う。
「出廷拒否の真偽に関しては再検討の余地があるとしても、当法廷が犯罪者を証人として認め
るわけにはいかない。まず貴殿は自身の犯された過ちについて―――」
「僕は犯罪者じゃない!」

 連れて行くよう職員に指示を与える尋問官に、ハリーは食ってかかった。

「例外があったはずだ! たとえマグルの目の前でも、誰かの命を救うためになら魔法を使っ
ても構わないって……!」

 後ろから強い力で肩を掴まれ、痛みに顔を歪める。それでもハリーは尋問官とその後ろの陪
審員たちに顔を向けたまま、怒鳴り続けた。

「僕が間に合わなかったら、無実の人間が殺されていた。ダンブルドアを殺したのはマルフォイ
じゃない!」

 ピクリ、と尋問官の頬が引きつった。陪審員たち―――いや、彼らだけでなく、傍聴人や職員
たちの間にも、動揺が漣のように走り抜けていく。

「ダンブルドアが殺されたとき、何があったか僕は知っている!」



「いいだろう」


 それは常に、決して愉快でない思い出と共にある声だった。
 かなり後方の陪審員席にいた彼に、その時ハリーは初めて気付いた。

「是非ともお聞かせ願おう。正確な、嘘偽りない事実を」

 獰猛な野獣が足音を忍ばせ、獲物の喉笛に喰らいつくタイミングを狙っている。彼はいつも
温かみのある声の裏に、そう直感させるだけの冷酷さを秘めていた。
 年老いたライオンを思わせる彼―――ルーファス・スクリムジョールは口元に友好的な笑み
さえ浮かべ、ほんの少し足を引きずりながらこちらへ歩いてきた。





「あの夜、ダンブルドアと僕がホグワーツを離れた。それはご存知ですね」
 黄色っぽい瞳から発せられる鋭い眼光を真っ直ぐに受け止めて、ハリーは言った。
「詳しく言う必要はないと思うけど…ヴォルデモートに対抗するための物を探しに行ったんです」
 ヴォルデモートの名を出すと、途端にあちこちから悲鳴が上がる。再びパニックに陥りかけた
法廷に対し、尋問官がしかめっ面で木槌を鳴らして静粛を呼びかけた。
 ハリーはその隙にそっと後退り、後ろ手に被告席へ手を差し入れた。指先に触れる冷たい鎖
を頼りに探っていくと、やがて柔らかなドラコの手に辿り着く。絡みつく金属同様、冷たくなってし
まっているその手を、ハリーは温めるように自分の両手で包みこんだ。傍目にはハリーが被告
人席の柵に寄りかかっているようにしか見えないだろう。
「僕たちは危険な目に合って、ダンブルドアは相当深手を負っていました。ホグズミードまで戻
ってきたとき、ホグワーツに『闇の印』が打ち上げられているのが見えたので、急いで箒で…天
文台の塔へ向かいました。僕がダンブルドアを―――助けられる人を呼んでこようとしたとき、
塔の階段を駆け上がってくる足音が聞こえて」
 後ろに回した手に、力がこもった。ひんやりとしたドラコの手を、さらにきつく握り締める。
「彼……マルフォイがやって来た」
 汗のにじみ出た手のひらの中で、ドラコの手は小刻みに震えていた。
「僕は『透明マント』をかぶっていたから、マルフォイは僕に気付かなかったんだと思います。マ
ルフォイがダンブルドアに杖を向けるのを見ていたけど、僕には何もできなかった。ダンブルド
アが僕を金縛りにしていたから」
「まさか」
 尋問官が呆れたようにのけぞった。
「それではダンブルドアが自ら、命を危険に晒したようなものではないか。金縛りの呪文をな
ぜ、被告人の方にかけなかったのだ」
「ダンブルドアはマルフォイを信じていたんだ」
 それは思いもかけない言葉だったに違いない。法廷中がどよめいた。
「マルフォイが人を殺せるはずがないって、信じていた。実際、マルフォイはダンブルドアに武
装解除呪文をかけただけだった。ダンブルドアは気付いていたんです、マルフォイが何をしよう
としているか。たぶん、最初の―――ケイティ・ベルのことがある前から。だけどもしもマルフォ
イの計画がダンブルドアに気付かれたと知られたら、彼はヴォルデモートに殺されてしまってい
た。ダンブルドアはそれを恐れて、敢えてマルフォイのやるようにやらせていた…もちろん少し
危険はあったけど」
「少し?」
 手にした羊皮紙を引きちぎらんばかりの勢いで、尋問官が爆発した。
「生徒が二人、死にかけた! その上、大勢の死喰人をホグワーツに侵入させる手引きをし、
器物破損、傷害、殺人未遂……生徒や教職員に死人が出なかったのが奇跡としか言いようの
ない事態を引き起こす危険を、ダンブルドアはみすみす放置していたというのか!」
「でも、誰も死ななかった。ラッキーなことに」
 尋問官に同調し、憤慨して野次を飛ばす陪審員や傍聴人に向かって、ハリーは声を張り上
げた。
「マルフォイは誰も殺さずに、家族を守ることができたんだ」
 背後でドラコが、小さく喘いだのが分かった。
「ヴォルデモートは家族を皆殺しにするとマルフォイを脅して……」
「両親を人質に捕られていたというのか? 死喰人たちの弁明の中では、『服従の呪文』にか
けられていた、というのと同じくらいよく使われる理由だ」
 これっぽっちも信じていない口調で、尋問官が露骨にせせら笑った。許しがたいことに陪審
員席の連中まで深く頷いたり、意味ありげな目配せをしあったりして、彼に同意を示している。

「僕は」

 大きく息を吸い込み、ハリーは言った。

「両親に会ったことがない」

 突然何を言い出すんだ、という怪訝な顔をして尋問官がハリーを見た。

「もしも両親に会えるというなら、たぶん僕はなんでもやると思う。代わりに両親が生き返るのな
ら、何の罪もない人を殺そうとさえするかもしれない。一度も会ったことのない両親のために。
父や母がどんな人だったか、僕は知りません。周りの大人たちで両親を悪く言う人はいなかっ
たけど、もしかしたら本当はすごく傲慢で、子供っぽくて、意地悪なところもあったかもしれな
い」
 湖のほとり、大きく枝を広げた木陰に寝そべりスニッチを掴んでは放し、また捕まえる…女の
子たちの視線を一身に浴びて、得意げになっている父親の姿を思い浮かべ、ハリーはこんな
時だというのにほんの少しだけ笑いそうになった。


「それでも僕はやっぱり父と母が大好きで、彼らの代わりになれる人なんて、どこにもいない。
両親を失うくらいなら、どんな恐ろしいこともやってみせる―――少なくとも僕は、その気持ちが
分かります」


 ハリーが言葉を紡ぐにつれ、冷たかったドラコの手は少しずつ体温を取り戻していった。強張
っていた指が解け、ハリーが握る手に力をこめると、弱々しくではあったが呼応するように握り
返してくる。たったそれだけのことが、ハリーの心を馬鹿みたいに浮き立たせた。
 スクリムジョールがじっとハリーを見つめ、ややあってから言葉を選びながら口を開いた。
「殺意を抱くことと、実際に人を手にかけることの間には深い溝がある。殺そうと決意した、そ
の時には自分が間違いなくやってのけられると思っても、いざ殺す相手を目の前にしてそれを
実行できる人間はほとんどいない」
「その通りです。マルフォイにはできなかった。彼はダンブルドアを殺そうとしたことはあっても、
実際に殺したのは彼じゃない。マルフォイはダンブルドアをいつでも殺せる状況にありながら、
『許されざる呪文』を使う事ができなかった。ダンブルドアに諭されてマルフォイが杖を降ろした
のを、僕ははっきり覚えています」
「それでは」
 すぅっと目を細め、スクリムジョールは尋ねた。
「ダンブルドアに『許されざる呪文』を使ったのは、一体誰だったのだね」
「マルフォイが杖を降ろしたのとほとんど同時に、何人かの死喰人たちが天文台に……」
 その時、ハリーの手を一際強くドラコが掴んだ。
 押し当てられた手首から、彼の脈拍が伝わる。
 激しく不規則なリズムを刻むそれに、ハリーはハッとさせられた。
「……マルフォイはなんと言ったんですか」
 驚きを顔に出さないようにして瞬きし、ハリーは尋問官に聞いた。
「私の方が質問をしたんだ。先に答えてもらえるかな」
 裁判記録の羊皮紙をめくろうとした尋問官の手を、スクリムジョールが止めさせた。
 抜け目のない視線が、ハリーの一挙手一挙動を監視している。
 ハリーは迷った。スネイプの名前を出すことは簡単だ。けれど―――

「死喰人たちはマルフォイがダンブルドアを殺せないでいるのを見て、代わりに自分たちでダン
ブルドアを葬り去った手柄を持ち帰ろうとして」


『ドラコ、走るんだ!』

 ハリーが発した失神呪文を避け、ドラコとハリーの間に盾のように立ちはだかったスネイプの
シルエット。あれがスネイプを見た最後だった。あの後彼が、どこで何をしていたか、消息は全
く掴めていない。生きているのか、死んでいるのかすら。
 ダンブルドアが死んだ瞬間から持ち続けていたスネイプを憎む気持ちに、少しの変わり無
い。

「死喰人の一人が『死の呪文』を使いました」

「呪文を使った死喰人の、名前は?」

 だけど同時に、やり方はどうであれ、彼がドラコを守ってくれていたという事実がハリーの心を
揺らす。あまり認めたくはないけれど、彼は自分がダンブルドアを殺すことで、結果的にドラコ
を守ったのだ。ドラコを、殺人犯の汚名から。
 ホグワーツを去った後も、もしかしたらずっと―――ドラコを守ってくれていたのかもしれな
い。
「……分かりません」

 悔しいが、ドラコの傍にいられなかったハリーの代わりに。

「暗くてよく分からなかったし、初めて見る顔ばかりだった。ただ、マルフォイでないことだけは
確かです」
 スクリムジョールが口端を歪めた笑いを浮かべた。
「例の事件の直後、君はダンブルドアを殺害したとして、周囲にある人物の名前を挙げていた
そうだが?」
「そうだったかもしれません」
 ハリーは顔を背けなかった。自分の選択は間違っていない、そう信じていたから。

「だけど僕が自信を持っていえるのは、呪文を使ったのは死喰人の一人だったということと、マ
ルフォイは人を殺せなかったということだけです」

「なるほど」
 ゆっくりと、スクリムジョールが頷いた。
「被告人の話とぴったり一致する―――不思議なくらいに」
 そして彼は尋問官の方をみると、もう一度頷いて見せた。
「採決を」
 尋問官が慌てて陪審員たちに呼びかけた。


「被告人を無罪放免とすることに賛成の者?」















 職員に付き添われ大臣室に向かって長い廊下を歩く間、ドラコはずっと重い足取りで絨毯を
踏みしめていた。
 自分に有罪判決を宣言した尋問官の表情を、まざまざと思い出す。弾かれたように振り向い
たハリーの、思い切り衝撃を受けた顔も。
 自分が晴れて無罪放免になるなどとは夢にも思ってもいなかったが、判決を下されたその瞬
間、首枷が突然倍の重さになった気がした。
 有罪の判決を受けたとはいえ、刑は軽かった。アズカバンに送り返されるわけでも、神秘部
に連れて行かれるわけでもない。ドラコに言い渡されたのは『適切な保護者』の下で当分の
間、行動を監視される。それだけだった。一時でもヴォルデモートに従ったものに対し、これは
ほとんど無罪と同じ扱いといえた。

(……だけどもう、二度と逢えなくなる……)

 誰がドラコの身柄を預かることになるのか、まだ知らされていない。しかしすでに、ルシウスの
『友人』の誰かがしたり顔で名乗り出ていることだろう。保護監督下に置かれるとなれば、恐らく
杖は没収される。自由を奪われるという意味では、アズカバンと変わりない。そして、またあの
行為を強要される。

(―――嫌だ)

 それを受け入れてしまったら、今度こそ二度とハリーに逢えなくなる。
 ドラコが家族を守ろうとした思いを、分かると言ってくれた。大勢の前で、臆せずドラコをかば
って……そのためにとんでもない無茶までしてくれた彼に、二度と顔を合わせられない。
 それでもいつか、生きてさえいれば。いつか、どこかで再び会うことができるだろうか。
 だとしたらやはりこの判決を、喜ぶべきなのかもしれない。けれどドラコは今にも溢れそうに
なる涙を堪えるのがやっとで、嬉しそうな顔などとてもできそうになかった。
 職員が足を止めたので目を上げると、すでに大臣室のドアの前まで来ていた。
 ここに、ドラコの監督を引き受けた人物がいる、とだけ言われていた。緊張のあまり内臓がよ
じれるような不快感を覚えたが、それをやり過ごして真鍮のドアノブに手を―――かけようとし
た瞬間、それは内側から勢いよく開いた。
 そしてドラコは大臣室から飛び出してきた、憤懣やるかたないといった様子のハリー・ポッタ
ーと顔を付き合わせていた。

「………あ」

 びっくりしたのかハリーがあんぐりと口を開けたので、かなり間抜けな顔になったが、驚いた
のはドラコも同じだった。
 大分伸びた前髪の合間から覗く、ドラコより高いところにある緑色の瞳が、キラキラと輝いて
いる。まるで飛び散った、ステンドグラスの欠片みたいに。
 ハリーの手が伸び、ドラコの首に触れた。ビクッと身を竦めるドラコの耳元に、パチンという小
さな音が届く。
 ふっと、首周りが軽くなっているのに気付くと、さっきまでドラコの首元を締め付けていた冷た
い首枷は、ハリーの手の中にあった。
 それを無造作に床の上に投げ出すと、ハリーは乱暴な仕草でドラコの手首を掴み、有無を言
わせず歩き出す。誰も止めようとはしなかったので、ドラコはハリーに手を引かれるままついて
いった。強引ではあったけど、手首にかけられる力も広い歩幅も、決してドラコが苦痛を感じる
ほどではない。
 アトリウムに辿り着くまでの間、大勢の人々とすれ違ったが、ハリーは一度も立ち止まらなか
った。
 自分の方を見ることも、話しかけることもせず、ただ歩き続けるハリーに微かな不安を感じ
る。しかし外に出るエレベーターに乗り込んだ途端、やおら振り向いた彼に息が止まるくらい強
く抱き締められた。
 ハリーの心臓がドクンと音を立てるのを、ドラコは耳元で聞いた気がした。

「ポッター…」

 どいういうつもりだと続けようとしたけれど、唇を塞がれてしまった。ぶつかるように、噛み付く
ように激しく、ただ触れるだけのキスを繰り返された。



「遅くなって、ごめん」



 口付けの合間に囁かれた。






「迎えに来たよ」





 ――― 一緒に帰ろう





 口付けは蕩けるように、甘かった。