重なった言葉に思わず二人は顔を見合わせて、それからどちらからともなく笑い出した。
「ごめんなさい・・・・・・ちっとも気づかなくて・・・・・・。」
「いや、私のほうこそ・・・・・・。」
 先ほどまでの緊張が一気に解されて、ナルシッサはキャッキャと笑い声を上げ続ける。
「そうか、あなたがナルシッサか―――。」
 はらり、とかかった前髪の奥から覗く、薄いグレーの瞳に、ナルシッサは吸い込まれそうに魅
入った。
 ―――なんて素敵な人。
 蝶の姿を追いかけて振り向いた途端、周囲の世界が急に色褪せたように感じた。
 それくらい、木立に佇むプラチナブロンドの青年は美しかった。
 からかうように「プリンセス」と言われて、恥ずかしかったけど嬉しかった。
 完璧な王子さまに、お姫様、と呼びかけられて怒る人なんて、いるだろうか。
 休暇で帰ってきたベラが、しょっちゅうルシウス・マルフォイの話をしていたけれど、こんな魅力
的な人だなんて言ってくれたこと、一度だってなかったと思う。
 ベラの話すルシウスは、頭が良いけれど冷たくて、自分勝手で―――ちょっと意地悪な同級
生、でしかなかった。
 なのに、目の前の青年は冷静ではあっても冷酷な感じはちっともしない。
 ナルシッサを見つめる眼は―――優しそうですらあると思うのは、勝手な思い込みだろうか?
「アンドロメダはともかく・・・・・・ベラトリックスとはあまりに感じが違うから、まさか姉妹とは思わ
なかったよ。」
 打ち解けた口調に、微かな笑みが浮かんだが、心のどこかが、小さな棘が刺さったように痛
んだ。
「似てないですか?」
 ルシウスの視線が、肩から胸へかかった髪に移るのを感じた。
「あなたの髪はお父上譲りなんですね。」
 きっと彼は、ナルシッサの父親に合ったことがあるに違いない。確かにナルシッサたちの父
は、金髪だった。しかしそれはナルシッサの明るい髪色とは違い、落ち着いたアッシュ・ブロン
ドで―――どちらかと言えばアンドロメダの栗毛の方に、よほど近かった。

「あまり好きではないんです。」

 さりげなく言ったつもりだったのに、妙に言葉がはっきりと響いてしまった。

「目立つから。」

 ああ、とルシウスが短く答えた。それだけで、彼が全てを理解したと悟る。
 ブラック家の人間は基本的にブルネットだ。例外は養子としてブラック家に婿入りした父と、そ
の父に瓜二つと言われるアンドロメダ、それにナルシッサだけ。
 ふんわりと豊かな、光を弾いてはキラキラと輝くブロンドは、普通ならば自慢してしかるべきも
のである。しかし家族のポートレイトの中で、一人明るく光を受けているような自分の姿を見る
たびに、自分だけが違う、という思いが鮮明にされ、いつしか疎ましく思うようになっていた。
 ブロンドは大抵、成長と共に徐々に栗毛に近づいていくものだから、と母は宥めるように教え
てくれたが、今のところナルシッサの髪は暗くなるどころか、一段とつややかに、輝いていくよう
だ。

「でもとても綺麗だよ。」

 同じ台詞を何度となく言われてきた。やたらと頭を撫でたがる客人たちから。
 父からも、母からも。アンも。時にはベラですら羨むようにナルシッサの金髪を褒める。
 その度にナルシッサは笑顔で答え、胸の奥の棘に気づかないふりをするのに、慣れているは
ずだった。
 それなのに。
 ルシウスにさりげなく言われただけで、なぜか、心臓が跳ねあがった。
「その・・・・・・私の髪よりもずっと明るくて。」
「そんな・・・・・・!」
 慰めようとしてくれているのだろうか。ナルシッサがつい、笑うのを忘れてしまったから。
 端正な輪郭に、ごく自然にかかった彼のプラチナ・ブロンドの方が、ずっと美しいのに。
「温かい―――」
 長い指がすっと伸びて、ナルシッサの髪を一房、持ち上げた。
 水遊びをしていたうちに跳ねた飛沫が、髪を伝わりルシウスの指を濡らす。
「水仙のクラウンの色だ。」

 ナルシッサ・ナルキッサス

 クラウン、というのが水仙の花の中央の、カップみたいな黄色い部分だということはすぐに分
かった。
 そしてそれが―――ナルシッサの髪の色だと。
「あなたにとても合っていて、私は」
 どくん、と心臓が戦慄いた。
 ナルシッサの髪を手に絡めたままルシウスは整った口元へ、自らの手を持っていき―――



「好きだ。」



 恭しく口付けた。






「・・・・・・ありがとうございます・・・・・・!」






 少女の顔に、これまでにないくらい幸せそうな笑顔が広がった。