マグルと同じやり方でキングクロスの駅まで移動したのは素晴らしい体験だった。
魔法無しでもマグルは自分達のやり方で、より良い生活環境を作ろうと努力を重ねている。
その成果の一つ、地下鉄に揺られてキングクロスへ辿り着いたアーサーは感動のあまりマグ
ル讃歌でも口ずさみたい気分だった。
時計針が、考えたくもない位置にさえなければ。
マグルの交通手段は果てしなく独創的で学ぶべき点が大いにあるが、難を言うならば時間が
かかりすぎるということだろうか。ついでにやたらと混んでいる。
ギリギリのところでホグワーツ特急に間に合ったが、次からはもっと時間に余裕を持って出発
しようと心に決めた。
そして空いているコンパートメントを求め、適当にドアを開けたら。
そこは窓際に、ぽつんと座っている小さな男の子がいるだけの空間だった。
ほんの5分前まで、密すぎる人の群れに翻弄されていたアーサーにはやけに広々と、やけに
寒々として見えた。
きっと新入生で、まだ友達なんて一人もいないに違いない。
寂しげな佇まいに胸が痛んだ。
同級生が自分の分の席も用意して待ってくれているだろうと思うと躊躇いもあったが、それを
遙かに上回って自分は彼と一緒に居てあげるべきだと感じた。
「・・・・・・ここ、空いてる?」
笑顔を『作る』のは苦手だったが怯えさせないように極力、優しい顔をしてみたつもりだ。明ら
かに戸惑った様子の彼に、他が空いていないから、と笑顔より苦手な嘘をつくと、やや間があ
ってから「どうぞ。」と了承された。
荷物を落ち着かせながらこっそり観察すると、彼はずいぶん綺麗な顔をしていた。しかし具合
が悪いのだろうか、先刻から妙にしかめっ面をしている。列車の振動に酔ったのか、単に緊張
しているだけか。笑えばさぞかし魅力的だろうに、と残念に思った。
襟足にかかった触り心地の良さそうな髪は美しいプラチナブロンドで、ブラインドの隙間から
差し込む日差しを反射してキラキラと輝いている。
せめてリラックスしてもらおうとせっせと話しかけるが、ことごとく短い返答と共に終了してしま
い、アーサーは己の話術の下手さを心から呪った。
しかしいくら新入生とはいえ、ここまでがちがちに緊張しているのは珍しい。普通はもう少し期
待感も漂わせているものだ。
そこまで考えて、ふと彼はホグワーツについてあまり知識がないのではないかという結論に
飛躍した。ホグワーツがどんなところか良く知らないから、必要以上に硬くなって、自分から誰
かにアプローチすることも出来ずにいるのだ。そうに違いない。
自分の推論に勝手に納得して、不意に重要なことに気づく。
ホグワーツに予備知識がない、ということは―――!
「もしかしてマグル出身?」
それまで恥ずかしがってアーサーの方を見ようともしていなかった彼が、瞬時にアーサーを正
面から見つめてきたので、やっぱりそうだったか、とアーサーは確信する。
マグル出身ということはホグワーツ事情には疎くとも、マグルの交通機関についてはNEWTレ
ベルを軽くクリアするくらい知っているに違いない。勢い込んで質問を続けようとしたアーサー
に、彼は不思議そうに聞き返した後、静かにこう告げたのだ。
「私はあなたと同じですよ。アーサー・ウィーズリー。」

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