「同じ・・・・・・ということは君も魔法使いの家系か。」



 ぴくり、と僅かにルシウスの顔の筋肉が引きつったが、アーサーは気づきもしなかったよう
だ。

 言うに事欠いて魔法使いの家系だと?単なる魔法使いと一括りにするのは止めろ!マルフ
ォイ家の純血をなんと心得る、無礼者!

そう啖呵を切ってやりたい。入学初日から騒動を起こそうと知ったことか。いや、いっそ決闘
を・・・・・・むしろ不意打ちを食らわせて・・・・・・
「待って!」
 ローブの内ポケットから杖を取り出す算段を考えていたルシウスは、感づかれたか、と小さく
舌打ちする。馬鹿みたいに目を大きく見開いて、目の前の赤毛は言った。

「なんで私の名前を知っているんだ?」
 体から力が抜けていくとはこのことを言うのだろう。もはや痛めつけてやろうという気力も萎え
てしまった。

「・・・・・・・・・純血が希少とされる現代では、一族の跡継ぎの顔くらいは知っておくのが常識か
と。」
 最後通牒だ。これだけヒントを与えれば、いくら鈍くてもまさか気づくだろう。
 アーサーはしばしぽかんと間抜け面を晒してから、はっとしたように頭を抱え込んだ。
 己の脳の足りなさを嘆いているのかと思えば、なにやらブツブツと単語を呟いている。よくよく
聞いてみると、純血一族のファミリーネームを片っ端から思い出そうとしているようだ。
 就学年齢に達した純血一族の顔と名前くらい、純血年鑑で調べて覚えておくのは最低限の
礼儀だろうと呆れつつ、馬鹿は放って一眠りしようと体勢を整えかけた途端、赤毛が顔を上げ
た。

「ルシウス・マルフォイ・・・・・・?」

 語尾にいくに連れて、言葉が自信投げに不明瞭になっていく。とても男の声とは思えなかっ
た。情けないにも程がある。
「はい。」
 正解だが答えるのが遅すぎた。褒めてやるつもりなんかない。
「そうか――――すぐに思い出せなくてすまなかった。」
 素直に頭を下げてくるのは、いい態度だと思った。
 しかし。

「ルシウスはマグルに興味はないか?」
 
 この男がなぜめげないのか理解不可能だった。
 しかも立ち直りが早いのかウキウキした口調なのがまた、ルシウスをうんざりさせる。
「もし少しでも興味があるなら3年生になったらマグル学を取るべきだよ。私は去年から履修し
ているが、本当に役に立つ、素晴らしい科目だ。3年まで待てないのなら私が本を貸そう。なん
なら教えようか。実は教材に使えそうな面白いものを持っているんだ。教授にぜひ今学期の授
業で使ってもらいたいと思って、さっき拾ってきたんだが、見たいか?宿題のレポートもある
ぞ。今から」
「ない!」
 止まらなくなりそうなセールストークに、ルシウスはついに被っていた皮を脱ぎ捨てて一喝し
た。
「え?」
「マグルに興味などあって堪るか。私は純血だ。」
 吐き捨てるように付け加えて、拒絶するように目を閉じる。
 これでやっと眠れる。

 さすがにアーサーもそれ以上何も言わず、コンパートメントに響くのは車輪がレールの上を回
る音だけになった。
 騒音に付き合わされて、ルシウスは少なからず疲れているはずだった。
 背もたれに体重を預けて目を閉じれば、すぐにでも眠りは訪れるはず。
 なのに、意識がなぜか不自然にきつく瞑った目蓋の方にいってしまい、心から安らぐことが出
来ない。
 苛立って頭を振りながら起き上がると、長身の体を居心地悪げにシートに沈めたアーサーの
姿が見えた。しょんぼりと背中を丸めた様子は主人に叱られた大型犬にも似ていて、ルシウス
はつい、口の端に笑みを浮かべてしまう。


「やっと笑った。」
 自分が笑われていることに気づいているのかいないのか、アーサーがほっとしたように言っ
た。
「さっきからずっと眉間にしわを寄せていたから・・・・・・もしかして私のせいか?」
 眉間にしわ、と言われてルシウスは再び眉を寄せたが、やっと自分の至らなさに気づいたら
しいところだけは評価してやることにした。
 褒美に、というわけではないけれど、どうせ眠れないのならば暇つぶしもかねて相手の気ま
ずさを解してやろうか、とルシウスは初めて自分の方から話しかけた。
「なぜ、マグルなんかに興味をもつのです。」
 問われて、アーサーの表情がパッと明るくなる。よほど嬉しいのか、アーサーは際限なくしゃ
べり出した。
 マグルは魔法が使えない代わりに、魔法族よりも創意工夫の能力に優れている、というのが
アーサーの持論らしい。
 たとえば今日彼が遅刻した原因の地下鉄だが、そこには天井から釣り下がっている輪っか
があり、それは激しい揺れを感じても倒れずにいられる工夫だ。怪我を杖の一振りで治すわけ
にはいかないマグルならではの発想なのだという。
 ルシウスに言わせれば怪我を瞬時に治癒するだけの能力もない野蛮人が、せいぜい転ばな
いようつっかえ棒を用意した程度のことが、どうして感激に値するのかさっぱり分からなかった
けれど。



「壊れたら直せばいいんじゃない。壊れないように気をつけることが大切なんだ。」



 真剣な眼差しで語るアーサーからは、どうしてか眼を逸らすことも、笑い飛ばすことも出来なく
かった。

「ぜひ、マグル出身の友達を作りたいと思っているんだけど、私が『ご両親はマグルか?』と聞
くと、なぜかみんな怒ってしまう。」
 なぜだ、と肩を落とすアーサーに、ルシウスはため息をついた。
 魔法界に来て、純血に『マグル出身か?』と尋ねられることほど屈辱的なことはないことを、
どうして彼は理解も思いやりもしないのだろうか。
 本気で悩むアーサーには、そう助言をしてやる気にもなれなかった。
 むしろ、助言ならばもっと良い言葉をルシウスは知っている。






「『付き合う人間は選べ。』」






 突然の言葉に、アーサーが首をかしげた。

「マルフォイ家の家訓です。ウィーズリー家にも加えられた方がいいのでは?」

 父がしばしば、ウィーズリー家がマグルや混血に対して寛容すぎると憤慨していたのを思い
出して、そう言い足した。
 今やほんの一握りと化した純血族が、なぜこれ以上マグルとかかわりあう必要があるのか。
 魔法使いの血は神聖なものだ。自らの血に誇りと、自信を持つべきなのだ。
 とくに、この男は―――



 アーサーは言われた言葉の意味を何度か自分の中で反芻している様子だった。
 ちゃんと伝わっているのか不安になり、ルシウスは再び口を開きかけた。すると

「分かった。」

 アーサーが、にっこりと微笑んだ。


「付き合う人間は、選んで構わないんだね。」


 分かったと言うわりに微妙にずれた反応に、ルシウスが面食らっていると、すっと右手を差し
出された。
 きれいに、指を揃えて。



「それじゃあ私は君を選ぼう。」



 とうぞよろしく、と楽しげな声音で言い添えられた。
 ルシウスはじっと差し出された掌を見つめた。

 信じられない。
 列車が動き出したとき、絶対に関わり合いになるまいと決めたはずなのに。
 いま、向こうから関わって欲しい、と言ってきている。
 じんわりと頬の内側から熱が沸きあがってきた。感情が昂ぶったから、というのは分かった
が、その感情が何か分からない。
 面白い、とか楽しそう、とか―――嬉しい、とか。
 どう足掻いたところで否定的なものではないそれに自分自身で驚きながら、更にルシウスは
自分の右手が意思と関係無しに持ち上がり、アーサーの手の上に重ねられるのを止められな
かった。






 重ねた手に、きゅっと力を込められた。思わず手を引っ込めそうになったが、それも叶わなく
て。






「これで友達だ。」




明るい笑顔に、一方的に宣言された。








アサルシ・出会い。
えらいデ・ジャ・ヴですが、狙ってみました。DNAレベルで行動が刷り込まれてしまうマルフォイ家。これも伝統。
はるかのなかでハリドラのハリーを真っ白に漂白してドラコをぐいぐい大人にすると、アサルシになるのです。
ハリーが白くてドラコが大人じゃハリドラどころかハリポタですらない気がしますが。