声を押し殺して暗い裏口の、小さなホールでボロボロと泣き続ける妹を、ベラトリックスはしば
らくそのままにしておいたが、やがて「自分の部屋に行きなさい。」といった。
フラフラと頼りなく立ち上がるナルシッサを助け、ベラトリックスはどうにか彼女に階段を上が
らせ、部屋に入らせた。
ベットに倒れこみながら、なお泣きじゃくる少女を、ベラトリックスはやや苛立ったように見つ
めていたが、泣き声が小さくなったところで、ボソリと呟いた。
「だから私は早いところ話しておけって言ったのよ。アイツに。」
ため息をついて軽く杖を振り、ベラトリックスはタオルを取り出すと、それをナルシッサに投げ
てよこした。
顔をどうにかしなさいといわれ、タオルを手に取ると、氷で冷やされたようにひんやりとした感
触だった。
腫れてしまったまぶたに押し当て、ナルシッサは必死でこれ以上、泣くまいとする。
「いいじゃない。アンとルシウスが結婚すれば、あんたはルシウスの妹になれるのよ。」
慰めるつもりが、思い切り失敗だったと、ベラトリックスは瞬時に悟った。
深い青の両眼から、止まりかけたはずの涙が、またしても零れ落ちたからだ。
「もう!分かったわよ。好きなだけ泣いてなさい!」
タオルに顔をうずめて泣き崩れるナルシッサの髪を、ベラトリックスはそっと、撫ぜた。
指の間を流れる髪は、まだ陽だまりの熱を含んでいるかのように、温かだった。
「シッサ。ショックついでに言っておくと、私も婚約したから。」
ぴたり、と泣き声が止んだ。
「……嘘。」
「本当。」
失礼な、と苦笑しながら掲げられた左手の薬指に、きれいな指輪が鎮座している。
アンドロメダと同じように―――
「ベラトリックス・レストレンジ。割といい響きじゃない?」
レストレンジ……何度か、自宅にベラトリックスが連れてきていた。
紅茶色の髪と瞳は悪くなかった―――でも、ルシウスとは比べ物にもならない……
「シッサ、言わせてもらうけど、あんたの恋心なんてせいぜい、顔にときめいてるレベルでしょ
う。」
はっきりと言われ、ナルシッサはしゅんとなった。
「それが悪いとは言わないわよ。でもね、その程度の恋が叶わなかったくらいで、この世の終
わりみたいに泣くことはないんじゃない。」
ベラトリックスの言うとおりだ。ナルシッサはルシウスのことを、それほど深く知っているわけ
ではない。ただ、すらりとスマートで、信じられないくらい、ハンサムで―――優しい眼で、ナル
シッサを見てくれるひとだということ。
ナルシッサの髪を「好き」だと言ってくれた。
髪にキスしてくれた。
一緒に手を繋いで歩いた。
ふと、枕の下に押し込めた日記の存在を思い出す。
ミセス・ナルシッサ・マルフォイ
決して叶わない願い事だと、知っていたけれど。
自分が、ルシウスにとって小さすぎるということも、理解していたけれど。
あの文字を綴った日が、一番幸せだった。
ほんの数週間前の出来事が、はるか遠い日のことのように感じられた。
「もっと幸せになれる相手が見つかるわよ。たぶん。」
ベラトリックスがどうでもよさを装いながら、慰めてくれたのが分かったが、ナルシッサにとっ
てあれ以上の幸せなんて、あるわけがない。
でも。
テラスを挟んで向き合うルシウスとアンドロメダの姿が、目を開けていてもはっきりと思い出
せる。誰がなんと言おうと、ぴったり釣り合った一組のカップルでしかなかった。
アンはナルシッサよりもどれだけ長い時間、ルシウスと一緒に過ごしてきたのだろう。
ホグワーツで6年間。その間、ずっと二人で成長してきた。そして、この先はずっと。
ナルシッサはよくルシウスと手を繋いでもらったが、長身の彼にとってそれは決して心地良い
ことではなかったはずだ。いつも少し、上体をかがませていた。
アンドロメダならば、ルシウスと手を繋ぐ必要はない。腕を組んで歩けるのだから。恋人のよ
うに。
心地良く、二人で歩いていける。
ナルシッサにはどうしたって、踏み込めるはずもない道を。
幸せな、道を。
自分に言い聞かせて、精一杯の笑顔を作った。
「おめでとう。」
こんな風に、あの二人を祝福したい。
「おめでとう、ベラ。どうか」
だってあの人は、私の王子様。
王子様は幸せにならなくてはいけないのだから。
「幸せに―――」
ベラトリックスが一瞬、驚いたようにナルシッサを見つめ、それから優しくナルシッサの頬を撫
ぜた。
王子様が私に幸せをくれた。
私は王子様の幸せを祈ることでしか、幸せをお返しすることができないけれど。
どうか、どうか、幸せに―――
ルシナル失恋編です。いいかげん妄想が激しくなってきたような・・・・・・(元からだ!)
アンドロメダは家庭的で女らしい、ほんわかした雰囲気の女性をイメージしてます。
ところでベラトリックスであってベラトリクスでないこと、ご存知でしたか?
私は最近気づきました(←極刑・・・・・・)サイトのあちこちをこっそり直していますが、まだ間違ってたら、
お手数ですがどうぞご連絡ください・・・・・・。
ちなみに今回ルシナルでやりたかったこと。抱っこ。これは身長差がないとできないですから!!

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