夏の空気には特別の力がある。
人の心を掴み、離さないまま浮き上がらせる。

まるで、魔法のような。







緑のヒカリ








「暑・・・・・・」
 8月の太陽は容赦のない暑さを送りつけてくる。日差しの最も強くなる正午過ぎならば、なおの
ことだ。
「ハリー、私達、少しテントに帰って休まない?」
 汗で前髪がぺったりと額に張り付いてしまったハーマイオニーが、うんざりした声を上げた。
「休む?冗談だろ!」
 こんなに見る物があるのに、とロンが反論する。
「ロン、試合は夕方からでしょう。今からそんなに興奮していて、ゲームの最中に眠くなったらど
うするの。」
「そんなことがあったら僕は杖を飲み込むね。」



 ハリーたちが今歩き回っているのは、クィディッチのワールドカップが行われるスタジアム近く
にある、キャンプ場だった。
 例年のこの時期であれば、マグルの家族連れで一杯になるはずのキャンプ場には、今年に
限り、文字通り世界各国から集まってきた魔法使い達がひしめき合っていた。
 ハリーにとっては初めて目にする異国の魔法使い達は、最初こそ物珍しく、興味深かったが、
こうも暑いともはやどうでも良くなってきた。
 けれど、昼食を食べた後すぐに他のキャンプを見に行こう、と言い出したのは実はハリーだ。
ハーマイオニーも、本で読んだ知識しかもっていなかった外国の魔法社会を、より身近に感じ
たい、と賛成した。
 ロンはむしろ、試合に備えてもう一度、両チームが無料で配布していたプロモーション用の雑
誌を読み直したさそうだったにも関わらず、二人が自分に比べて魔法界全般の知識が少ない
ことを思い出して、解説がてらついてきてくれることになったのだ。
 そこには、自分が二人より勝るものがあるという優越感も多少あったかもしれないが、ほとん
どは純粋に、マグル育ちの友人を気遣う気持ちからの行為だ。
 しかし、キャンプ場はハリーとハーマイオニーの想像をはるかに超えて、広かった。
 そしてロンは、一度熱中すると急には止まれない。
 始めのうちは二人から質問されれば答える、という感じだったのだが、二人の、というより主に
ハリーのあまりに突拍子もない質問―――たとえば、何のために天辺にパラソルを逆さまにつ
けたテントがあるのか、ということ・・・・・・練習用のブラッジャーが練習場から飛び出したときに
キャッチできるよう、一定区間に1つはブラッジャー捕獲用のテントを作っておくことになってい
るらしい・・・・・・パラソルでどうやってブラッジャーを捕まえるのか想像もつかないが―――に
し びれを切らしたらしく、途中から視界に入るもの全てを解説してくれるようになった。
 ――そしてそれに喜びを見出してしまった。
 もちろん自分達が言い出したことにつきあってくれ、なおかつ自分達のために気を利かせてく
れている―――少なくとも本人はそのつもり―――の親友に、あまり無下に「もういいから」と
は言えない。
 とはいえ、道らしきものはあるものの、舗装されているわけではないため、しょっちゅう木の根
につまづきそうになる。加えてこの暑さ。
先ほどからそろそろテントに戻らないかと、それとなく促してみるものの、ロンの耳には届かな
い。
 こっそりため息をつきながら、ロンの指差す前方のテントへ視線を上げたちょうどその時、ハ
リーの後頭部を何かが小突いた。
「痛っ!」
 てっきりハーマイオニーの仕業かと振り向くと、彼女は自棄を起こしたように、あちこちに広が
る髪の毛を、乱暴に一まとめにしているところだった。
そして、ハリーと目が合ったのは薄い蜂蜜色の大きな瞳。
「・・・・・・フクロウ・・・・・・?」
 ヘドウィグではない。茶色の・・・・・・いや、そもそもフクロウではない。
 耳がある。
 ということはミミズク。
「ハリー?なんだよそいつ。迷いフクロウ?」
 ロンの言葉に反応してか、そのミミズクは怒ったように低く鳴いた。
「・・・・・・ついて来いって言われてるみたい。」
「・・・・・・え?」
 ミミズクは今度はやや高い音で長めに鳴くと、木立の合間をゆっくりと飛んでいった。
「招待されたみたい。ちょっと行ってくるね。二人は先にテントに戻ってて。」
 それだけ言うと、ハリーは迷うことなく、道のない木立の中へ足を踏み入れた。
「ハリー!ちょっと待って・・・・・!」
 ロンの静止を聞かないですむよう、ハリーはできるだけ早くミミズクの後を追いかけていっ
た。