「君が欲しい」
と告げられた。
何度も、何度も。
「君だけが欲しいんだ」
と。
だからといって、簡単にくれてやるわけには、もちろんいかなくて。
我侭な鎖
じんわりと、ほてった肌に汗が滲む。
クィディッチ・ワールドカップ決勝戦を数時間後に控えて、会場近くのキャンプ場には、早くも
熱気が立ち込めていた。
その熱気はさざ波のように空気を震わせて、中心部から大分離れた水辺にまで及んでいる
ようだった。
眩しいほどのきらめきを見せてたゆたう湖面に、二人の人物の影が落ちている。
好き勝手な方向にぴんぴん跳ねた黒髪と、すっきり流された金髪。
二人は黙って身を寄せ合い、互いの鼓動だけを聞いていた。
風が木々の合間を通り抜け、二人の髪を乱しながら去っていく。
少し離れた木の枝に止まったワシミミズクが、先刻から触れ合ったまま、身じろぎひとつしな
いでいる主人を諌めるように、短く鳴いた。
途端、弾かれたようにドラコは身を起こして、ずっと握り締めていた小箱を、ハリーに押し付
けた。
「・・・・・・さっさと・・・・・・開けろ。」
ハリーは急に理性を取り戻してしまった恋人に、一瞬残念そうな眼差しを向けたものの、すぐ
に嬉々として、渡されたバースデープレゼントのラッピングを解きにかかる。
銀色の細いリボンが微かな音を立とともに緩み、緑の包装紙の中から、光沢を持った白い小
箱が現れる。
「・・・・・・腕時計だ。」
やがて姿を現したプレゼントの正体に、ハリーがなぜか、少しだけ当惑した声をあげた。
無理もない。見るからに高級そうな腕時計は、よく見るとシルバーのベルト部分に蛇を組み
合わせた細工が施されており、モスグリーンの文字盤と相まって、どうしてもスリザリンを思い
起こさせてしまう一品だったのだ。
これをグリフィンドールの生徒が日常的に使うには、かなり勇気が要るだろう。
ましてハリーはただのグリフィンドール生ではない・・・・・・不本意ながら、現在在籍中の生徒
の中で、もっとも注目を集めやすいグリフィンドール生の1人だ。
贈り主の本意を図りかねて視線をあげると、ドラコは妙に満足げな顔をしていた。
「どうするんだ、ポッター。まさかこの僕が直々に選んでやったプレゼントが気に入らないとか言
いだすんじゃないだろうな。」
完全な確信犯だ。
「それ、使うんだろうな。」
言葉とは裏腹に、絶対に使えないだろう。と表情が告げている。
ハリーには使えない。けれどハリーは使いたい。他ならぬドラコからの贈り物だから。
けれどハリーの置かれている立場がそれを阻む。ドラコとの関係は二人の秘密。ロンやハーマ
イオニーにすら教えていない。秘密にする、と最初にドラコと約束した。それなのに今、ドラコは
ハリーに、自分達の関係が露になるような物を押し付けて、使え、と言う。
そこまで考えて、ハリーの口元がどうしようもなく、綻んだ。
ドラコは試しているのだ。自分では気づいていないのかもしれないが、要求している内容は、
明らかに選択を迫っている。
秘密の関係を続けるために、時計を隠すか。
秘密の関係を続けないために、時計を隠さないか。
簡単な二択の答なんて考えるまでもないのに、ドラコには分からないのだろうか。
たぶん分かっていないのだろう。
敢えてこんな子供じみたやり方で、試してみたりするのだから。
「もちろん」
口を開いた瞬間、ドラコが緊張するのが分かった。
さっきまで余裕を見せようと必死だったのに、今はそれすら忘れてる。
「使わせてもらうよ。」
ゆっくりと息を吸ってから、ドラコが言った。
「・・・・・・それなら、良い。」
それきり何も言わず、ドラコはハリーの手首を取った。
腕時計を取り上げ、嵌める。
パチン、と音がして、腕時計はハリーの左手首に落ち着いた。
まるでそこに落ち着くことが決まっていたかのように、当たり前に。
「たぶん君が思ってるほど、他人は僕の腕には注意を払わないと思うよ。」
俯いてしまったドラコに、ハリーはそっと教えてあげた。
「皆が見るのは僕のおでこだからさ。」
頬にキスを装いながら囁くと、バカ、と囁き返された。
小さく笑って、更に本格的なじゃれ合いを開始しようとしたら、意外なことにドラコのほうから
抱きついてきた。
くっついてきた体は、いつものひんやりしたそれではなくて。
魔法をかけられたように、熱くなっていた。

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