「……ッ!」
つい安心して警戒を解いていた歯列を割り、ハリーの舌が奇襲を仕掛けてくる。
反則だ、とクレームをつけたいのに、後頭部と腰を強い力で固定されたドラコには、それすら
できない。
おまけに逃げるドラコを追い求め、より深くまで侵入してくる器用で卑怯な舌先に、身体は悔
しいくらい簡単に翻弄されてしまう。
「ふ……ぅ…ッ」
腰の丸みをなぞるように蠢く左手の動きも手伝って、覚束なくなった脚の合間をこじ開け、ハ
リーの太腿が差し入れられる。
そのまま身体ごと暖炉脇の壁に押し付けるようにされて、好きなように貪られた。
合わせた唇から、全身に熱が波及していく。
指がネクタイの結び目辺りを弄っている。このまま解いて上気した肌を晒させるつもりなの
だ。
「ねぇ、今日はもうサボっちゃおうよ。」
それで一日中、一緒にいよう、と耳殻を甘噛みしながら、そんな睦言を囁かれて。
ぱた、と水滴が落ちた。
頬に感じた冷たい感触に、驚いて顔をあげたハリーは。
涙が零れるのを我慢できなかったらしいドラコに、更に驚いた。
「な……なんで!?」
この状況下、どう考えても泣かせた原因は自分以外有り得ないのに、それでも理由を尋ねて
しまうのは、ドラコがあまりに悲しそうに泣いていたから。
悲しませたかったわけじゃなかった。
ただ、ハリーの言動一つ一つに、初々しく反応するドラコが可愛かったから、つい調子に乗っ
てしまっただけで。
こんな風に泣かせたいなんて、考えたこともなかったのに。
「……泣かないでよ」
床に座り込んでしまったドラコに合わせ、ハリーもしゃがみ込む。
ドラコは顔を手で覆い、肩を震わせている。ハリーの方を見ようともしない。
「ごめん」
あまりに痛々しく泣く姿を見ていると、言い知れぬ罪悪感でいっぱいになってしまいそうだっ
た。息苦しさを紛らわすかのように、ハリーは自分が乱してしまったローブごと、ドラコを抱きし
めた。
抱き込んだ肢体は折れてしまいそうに華奢だった。こんな細い、小さな身体で、ドラコは自分
を全て受け入れてくれていたのだ、と改めて気付かされる。
一緒に暮らすようになって日は浅いけれど、口では鋭く切り返しながら、ドラコはハリーの我
侭を一生懸命聞いてくれていた。職場も、家も、これまでと違う新しい環境で、それに慣れるだ
けでも大変だというのに。
そんなドラコに付け込んで、泣き出すまで困らせてしまうなんて。
「ごめん」
自然に抱きしめる腕に力がこもった。
「僕はただ」
柔らかな金髪に顔を埋め、囁いた。
「少しでも長く君と一緒に居たかっただけなんだ」
バカ、と微かにくぐもった声が聞こえた気がした。
気のせいかどうか確かめようと、俯いたハリーの身体に、急に圧力が加えられる。
逆上したドラコに半殺しにされるのかと一瞬だけ身を硬くしたが、すぐにそれは単にドラコがし
がみついてきただけだったことに気付く。それはもう、無茶苦茶に。
「ドラコ、苦し……」
「バカ」
肺を圧迫されてゲホゲホと咳き込むハリーを無視して、ドラコが泣き声で呟いた。
「僕だって……ずっと、一緒に居たい…に決まってるだろ……」
途切れ途切れに紡がれる言葉に、ハリーは再び固まってしまう。
「…けど―――お前は僕が……養わなくちゃいけないのに…だから、ちゃんと……働こうって
―――なのに、邪魔ばっかりして…!」
ドラコがハリーの腕の中でしゃくり上げたのが分かった。
「キ、キスしただけだって、僕は…離れたく―――なくなって…苦し……のに…」
ドラコは涙に邪魔されて、しゃべるのさえ辛そうなのに健気に自分の想いを言葉にしている。
ハリーは涙の発作がこれ以上酷くならないようにと、痩せた背中をゆっくりと撫ぜさすってや
った。
「ごめん」
ゆらゆらと抱きしめた身体を揺らして、あやすようにしながら、何度も謝って、髪や目元にキ
スを落として。
「泣かせたりして、本当にごめん」
ごめんねの合間に、好きだよ、を繰り返し挟み込む。
そして、ありがとうも。
こんなにも好きになってくれて。
こんなにも好きにさせてくれて。
ごめんね、と好きだよ、とありがとう。
そのどれを聞いてもドラコは弱々しくかぶりを振るだけだったけれど、それは決して拒否では
ない。
ハリーにしがみつく力は決して緩んだりせず、それだけで十分、彼の気持ちは伝わってくる。
分かってるよ、と教えてあげたくて、手触りの良い金髪を優しく梳いた。
これは昔から知っている、ドラコが好きなことの一つ。
ドラコが喜ぶことならなんでもしてあげたい。
掬い取った髪の一房に口付けながら。
自分に抱きついて震えるドラコを心から愛おしいと思った。
自分のことをこんなにも愛してくれる、家族を。
「というわけで今日から皆さんと一緒に働かせていただきます、ハリー・ポッターです。ご迷惑を
おかけすることもあるとは思いますが、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」
爽やかに澄み渡った朝にふさわしく、爽やかな挨拶を述べたハリーに、部屋中から暖かい拍
手が送られる。
約一名を除いて。
そう、結局2日連続でドラコが『風邪のため』欠勤したその日のうちに、ハリーはちゃっかりドラ
コと同じ職場に採用を決めてしまったのだ。
ドラコが泣き疲れて眠り込んでいる僅かな隙に、いとも鮮やかに。
そしてそのことをドラコが知ったのは、朝になってから。
暖炉の前でキスをねだらなかったのは、さすがに反省しているのか、と安心しながらも少しだ
け寂しく思っていたドラコに続き、ハリーが暖炉に押し入ってきたときに、事態は発覚したわけ
で。
パニックと怒りとで沸騰寸前のドラコに、ハリーは満面の笑みで「夫婦共働き、しかも同じ職
場なんてむしろ理想じゃない?」と告げたのだった。
思い返しただけでもムカついてきて、そっぽを向くドラコの隣の席は、腹立たしさを加速させる
ことに新人の席、つまりはハリーの席だ。
「よろしくね」
ウキウキした口調で挨拶されたので、ジロリと嫌な目つきをくれてやったのに、代わりに差し
出されたのは当然のように彼の右手。
不本意ながら毎日のように見ているけれど、こうして改めて見ると、少しだけ新鮮で。
ドラコは小さくため息をつきながら、自分の右手を差し出した。
捏造ハリドラ新婚物語。卒業したらもう大人です!!
毎朝、無駄に手を繋いで出勤、ベタベタしすぎで(ハリーが)上司から厳重注意されたり。
たまには残業もあったり!で、ぺたぺた。週末ももちろんぎゅーぎゅー(満員電車ではありません)。
甘々度が背景に負けてしまったのが、ちょっと悔しいですヾ

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