「遅い!」

 ホグワーツに帰り着いたのは夕食の時間ギリギリだった。
 玄関ホールを入ってすぐ、大広間の前で留守番をしていた級友達が今や遅しと待ち構えてい
た。
「どこ行ってんだよ」
 自分で行けと言ったくせに、ザビニがジト目でドラコに絡む。
「先生のおつかいにお供したんだ。おいパンジー、ケーキは買わなかったぞ」
 スネイプに聞こえないよう声を潜めて結果報告をする。クレープは食べたけど、と付け加える
のは心の中だけにしておいて。しかし話を振られたパンジーの方は、なぜかぎくりとした様子で
曖昧にうなずくだけだ。代わりに他の女子生徒が待ちきれないように囁き返した。
「もう準備はできてるわ。エルフに言いつけて私たちの分だけ夕食を教室に運ばせたの。だか
ら先生をこのまま連れてっちゃいましょう!」
「オーケー、分かった」
「諸君、立ち話はそれくらいにして早くテーブルにつきなさい」
 ひそひそ話を続けて一向に広間に入ろうとしない一年生に、スネイプが訝しげに言った。
「荷物をお持ちします、先生」
「先生のお部屋でいいですか?」
 女の子たちがスネイプの抱えていた荷物をひょいと取り上げてしまう。そしてそれはさっさと
横に突っ立っていたクラッブとゴイルに押し付けて、自分たちは両側からスネイプの手を取っ
た。
「……なんなのだね、一体…?」
 半分引っ張られるようにして、スネイプは仕方なく彼女たちについて地下行きの階段へ向か
う。
 あとへ続く残りの一年生はこれから起こることを予想して、クスクスと忍び笑いをもらすのを
抑えられずにいた。
 薬学教室の扉の前まで連れてこられたスネイプは、困惑を隠せない様子で彼を取り囲む生
徒達を見回す。
「先生、中に入ってください」
 ドラコの言葉にスネイプが本日何回目とも知れないため息をつくと、諦めてドアノブへ手をか
けた。このあと何をするかは昨日の内に決めてある。


『Happy Birthday Professor Snape!!』


 スネイプが扉を開けるのに合わせ、一年生全員の掛け声と共に小さな星の欠片みたいな光
が飛び散った。

「先生、お誕生日おめでとうございます!」
 後ろにいた一年生たちがワッとスネイプを取り囲んだ。
 普段授業をしているときと打って変わって明るい室内に、派手な飾りつけがされている。
 黒板の中央に大きく「お誕生日おめでとう」と書かれ、余った部分には所狭しとごちゃごちゃし
た書き込みが加えられている。いつもありがとう、とか、薬学の勉強を頑張ります、とか。
 ピンクのテーブルクロスが机をよせて作ったテーブルに敷かれて、その上で湯気を立てて夕
食の準備が整っている。真ん中に置かれたのはもちろんケーキ。
 生徒たちはワクワクしながらスネイプの反応を待っている。驚く?喜ぶ?

「………先生?」
 しかし、黙って立ち尽くしたままのスネイプにドラコが少しだけ不安げに声をかける。
もしかして気に入ってもらえなかったのだろうか。教室を勝手にパーティー会場にしてしまった
のを……怒っている…?
 ゆっくりとスネイプが振り向いた。怒っているというより、困っているように見える。

「…ああ…―――その…諸君の気持ちは……」

 緊張した面持ちでスネイプを見上げる面々に、なんと説明したらいいのか分からないまま言
葉を探る。魔法薬学のややこしい問題より、ずっとずっと難解だ。
 でも答えを知らないときは、正直にそう告げるしかない。

「すまない。こうして祝われたときにどうすればいいのか分からないのだ」

 生徒たちがぽかんとするのが分かる。きっと彼らにとっては考えるまでもないくらい簡単な問
題なのだろう。こんなことも分からないなんて教師失格と思われるかもしれない。
「先生、嬉しいですか?」
 新しい質問を発したのはドラコだった。自分にも分かるようにわざわざ初級者編の問題から
選んでくれたのだろうか。
「ああ」
 そう、嬉しい。誰かに自分が生まれた日を、生まれたことを「おめでとう」と言ってもらえるの
が。それは分かる。今だって、泣き出したいくらいに。

「それじゃ簡単です」

 悪戯っぽい笑みを浮かべてスネイプに解けなかった問題を易々と解いてみせるドラコは、き
っと普通の子供なのだ。
 大切にされることを当たり前に受け止めて、やがてそれを返していけるようになる。

「喜んでください」

 小さな両手がスネイプの右手を包み込む。
 触れ合った指先から優しい気持ちと―――必死の想いが伝わってくる気がした。

「分かった」

 スネイプはほんの少し微笑んだ。


「ありがとう」

 地下から沸きあがった拍手と歓声は、地上でいつもどおり夕食を楽しむ者たちにまで聞こえ
はしなかったけれど。
 いつもと違う特別な日の秘密のパーティーは、地下の一室でこっそり始まろうとしていた。



 いっぱいの、幸せと共に。







スネイプ先生、お誕生日おめでとうございます!(2006年1月9日)
先生、大好き。ドラコとのお手々つなぎデート(笑)が書けて良かったですv
あとドラコが1年生!この頃はドラコも先生も若いなぁ…というのも変ですが、「賢者の石」あたりのほのぼのハートフ
ルアドベンチャー風だった原作がちょっと懐かしいです。いまやバトロワ…なりかけ(泣震)。
先生にこっそりのつもりでウィンクしたら先生にもウィンク返されて椅子から滑り落ちるドラたんを書けなかったことだけ
が心残りですヾ