初めて、はあまりに突然で。
何が起こったかも分からなかったけど。
二回目だからといって、慣れる、ということもなく。
かえって緊張は増すばかり。
SMOOCH!
車窓を緑の木々が通り越していく。
列車が伝える規則正しい振動を感じながら、ドラコはぼんやりと外の景色を眺めていた。
頭の中を占めているのは、昨日の光景だ。
学年末のパーティーで、スリザリンは確実と思われていた寮杯を7年ぶりに逃した。
ダンブルドアの、グリフィンドール、いやハリー・ポッターに対するえこひいきのせいで。
『賢者の石』を守り、『名前を言ってはいけないあの人』を退けた。
確かにポッターの行いは十分な加点に値するものだったといえるかもしれない。
しかしなにも、ウィーズリーやグレンジャー、ましてロングボトムにまで点を与える必要はない
だろう。ウィーズリーたちがポッターをサポートしたことは間違いないが、ポッターのやり遂げた
ことはその何倍もすごいことだ。赤毛やマグルが50点なら、ポッターは200点もらったって……
そこまで考えて、ようやくドラコはこれではポッターの賞賛になってしまうということに気づく。
ため息と共に目を閉じれば、両隣の友人と抱き合って、寮杯獲得を喜んでいたポッターの姿
がちらついた。
ホスピタル・ウィングで眠ったままだと聞いていたのに。
大広間に一人、遅れて現れたポッターはいつもと変わらないくしゃくしゃの黒髪に、メガネ、額
の傷―――深い緑の瞳。
見慣れた姿のはずなのに、ほんの数日見かけなかっただけのはずなのに、その瞳には何か
をやり遂げた自信と誇りがあり、それが全身に急に大人になったような雰囲気を漂わせてい
た。
それを見たドラコはまるで、自分だけが置いてけぼりを食わされたように感じて―――。
「ああ、もう!」
急に立ち上がったドラコに、目の前の座席のお供の二人は、食べかけのおやつを危うく落っ
ことしかける。ご機嫌が急降下したらしいドラコを前に、やたら大きな体を二人して縮めあう。
「マルフォイ、どこに行くんだよ?」
コンパートメントのドアに手をかけたドラコに、クラッブが慌てて声をかける。
「うるさい!」
ついてくるなというのも面倒で、ドラコは返事代わりにドアを乱暴に閉めてやった。
―――どうしてこう、ポッターのことばかり考えてしまうんだ!
ドラコは自分にイラつきながら、列車の連結部へ向かった。
わけもなく、一人になりたい気分だった。
しかし、一人になってしまうと邪魔するものがいない分、余計に思考は知らないうちに意識す
るものへといってしまう。
こんなにもポッターが忘れられなくなってしまったのはいつからだろう、と考えるまでもなく、答
えは出ている。
あの夜。
ポッターと罰則で『禁じられた森』へ行かされた日。
あれが全ての元凶だ。
そういえばもう一ヶ月も前のことかと考えながら、連結部の扉をグイ、と開け、一人になれる
はずの小さな空間へ足を踏み出した瞬間。
「マルフォイ?」
丸いガラスの向こうに見える緑の瞳は、どうか幻であって欲しいとドラコは願った。
しかし、現実は残酷で。
「何やってんの、こんなとこで。」
「……お前こそ……」
何が悲しくて、先ほどからのイラつきの原因の元へ自ら飛び込んでいかなければならないの
だろう。ドラコは悪態をつく気にもなれず、ハリーに背を向けた。
が、足が進まない。
いや、足は動いているのだが、なぜか前へ進まないのだ。
「……ポッター?貴様、僕のローブを放せ!」
「やだ。」
「なッ……!」
短い否定に頭に血が上り、ドラコはハリーがいつの間にかしっかり握り締めていたローブを、
乱暴に引き剥がそうとした。
その時、ガタン、と大きく列車が揺れた。
バランスを失ってドラコは倒れこんだ。
あろうことか、ハリー・ポッターの腕の中へ。
「は……」
放せ!と言いかけて目を上げると、量の多い前髪の合間から覗く瞳が、かつてないほど近く
にあることに気づき、ドラコは思わず言葉を飲み込んでしまう。
いや、かつてないほど、ではない。一度だけ、あった。
これくらい、近くで彼の眼を見たことが。
「森のこと、思い出した。」
言葉少なに告げるハリーに、ドラコの方はあの夜の出来事が一気にフラッシュバックして、顔
がどんどん赤くなっていくのを止められない。
「もう一ヶ月もたったんだ。」
早いね、と独り言のように呟く。
「あの時のこと、怒ってる?」
当たり前だろう!と、言いかけて。
ハリーが馬鹿にしているわけではなく、真面目に尋ねているのだということが分かって、ドラコ
はまた、口をつぐんでしまう。
このまましゃべったら、とんでもない事を口走ってしまいそうで。
しゃべってしまいそうなのは、自分の心とかけ離れたこと?それとも自分の本心?
ドラコにはどちらか分からなかった。
「怒ってない?」
ハリーの顔が近づいてくる。自信に溢れていた瞳、この一年でぐんと大人びた瞳。なのに今
はなんて不安げな色をしているんだろう。それでも、その瞳から視線を逸らせない。
「怒ってないなら、もう一度、してもいい?」
びくん、とおかしいくらいに体が震えたのが分かった。
ローブ越しに、ハリーの体温を感じる。
あの時と、同じ―――
やがてハリーの唇がドラコのそれを塞いだときですら、ドラコはあの夜と同じように、身動き一
つできずにいた。
「おかえ……り……」
ドラコが戻ってきたことで安堵し、途中まではいつも通りの大声だったのが、途中で小さくなっ
ていく。
クラッブとゴイルはどちらからともなく顔を見合わせた。
コンパートメントを出て行ったとき、ドラコは苛立っていたが、今は逆に魂が抜けたように呆然
として、二人の姿すら目に入っていないかのようだ。
「マルフォイ……?」
チョコ食べる?と、カエルチョコレートを差し出してみるが、ドラコの視界にすら入っていないこ
とは明白だった。
「どこに行ってたのさ。」
何気なく発した質問が、ドラコを思いがけなく正気に戻したらしい。
ハッとした表情で自分の席に戻ると、そっぽを向いたまま、なんでもない、と口の中で呟くの
が聞こえた。
キングクロスの駅が近づいてくる。
夏休みが終わって、再びここに戻ってきたとき、果たして自分は彼の顔をまともに見られるの
だろうか、とドラコは頭を悩ませていた。
サイトを作って一ヶ月なので、ハリドラ的にも一ヶ月目なお話を(なんだそれは)。
結局、真夜中の森でキスされちゃってたドラコ。
ここのところは「恋とはこんなものかしらッ?」で描いたショートストーリーを意識してますv
そして二回目のキスも帰りのホグワーツ特急で奪われちゃったドラコ。
このあとはもうハリーラブフェア一直線ですよ〜!

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