欲しいものは一つしかない。
本当に欲しいものは一つだけ。
問題なのは、ほとんどの人が本当に欲しいたった一つのものが分かっていないということ。
自分の欲しいものを知っている人って
すごく幸せだと思う。
たとえば、僕、とか。
雨夜の小夜曲
規則正しい寝息が、ハリーの胸元をくすぐっている。
温かな吐息を送り続けているドラコは、ハリーにぴったりと寄り添って眠っていた。
猫のように背中を丸めて眠る彼の表情は、ハリーの胸に埋められているため、見ることは出
来ない。しかしそれが安心しきった穏やかなものであることは、容易に想像がついた。
―――猫は安心している場所では顔を隠して寝るものだ。
いつだったか、ハーマイオニーが言っていた気がする。
緩やかに上下する背中を無意識の内に撫でながら、ハリーはひそやかに笑みを浮かべた。
時計の針はとっくに深夜を回り、静かな室内には雨が窓を叩く音だけが、やけに大きく響いて
いた。
その雨音も、先刻までの荒々しく叩きつけるようなものから比べれば、ずっと柔らかく、優しい
ものへと変わっていた。
前触れなく、厚い天涯を通して微かな光が差し込んだ。
だいぶ遠退いたな、と思った次の瞬間、不愉快な猫の唸り思わせるゴロゴロという低音が伝
わってきた。
浅い眠りから醒めないまま、ハリーの腕の中のドラコが、小さく身体を震わせる。
その様子は昼間の偉そうにふんぞり返ったものと、あまりに違っていた。
最初から大人しく、こんな風にくっついていれば良かったのに。
ハリーに背を向けて、一方的に「寝る」と宣言したのはドラコのほうだった。
けれど生憎、今夜は屋内にいてもはっきり感知できるくらいの酷い空模様で。
古いガラス窓を震わせる稲妻と雨音、そして時折差し込む鋭い光は、彼を安眠させてはくれ
なかったようだ。
怯えて、助けを求めるようにハリーにしがみついてきたドラコを、拒む理由なんてあるはずも
ない。
宥めるように軽いキスを繰り返すうち、いつしか彼は眠ってしまった。
体中から力を抜いて、安心しきったように。
ハリーは華奢な肩に廻した腕に力を込めた。
『今日は嵐だから。』
『きっと冷えるから、一緒に寝て。』
こんな嵐の夜のためにと、用意していた台詞を紡いだハリーに、ドラコはしかたないな、とだ
け言って。
そして、今もこうしてハリーの隣にいる。
そっと抱き寄せれば、確かな体温と鼓動とを感じていられる。
不意に今、幸せだと思った。何の他意も無しに。
外は雨と風とが吹き荒れているというのに、ここで暖かな寝床に彼と二人、互いの温もりを感
じあっていられる。
したい時にいつだって、寝顔からキスを盗むこともできる。
一人きりじゃない、とはっきり、感じていられる。
パラパラ、と水の粒が転がる音に聞きいっている内に、まぶたの裏にプリペット通りの階段下
が蘇ってきた。
今だって、ハリーだって嵐なんか好きじゃない。
でも、あの家にいたときは今よりもっと嫌いだった。
嵐が怖かった。
暗く狭い物置の片隅で、忍び込む冷気と不快な湿気から身を守ってくれるものは、何もなか
った。
せめて恐怖を紛らわそうと、古い枕に必死でしがみついて、夜をやり過ごすしかない。
あの時は、自分を守ってくれるものが欲しくて、慰めてくれる人が欲しくて、それさえ手に入る
のならば他には何も要らないと思った。
それなのに、今は。
守りよりも、慰めよりもハリーが欲しているのは―――彼の腕の中で眠るドラコだけだ。
他の誰がなんと言おうと、ドラコを守って、慰めて―――愛して―――いられれば、それだけ
で幸せなんだと胸を張って言い切れる。
自分でも気づかないうちに抱きしめる力が強くなっていたらしい。ドラコがほんの少しだけ苦し
げに、息を吐いた。
羽毛のように柔らかい髪の毛を指先で弄び、こめかみにキスを落とした。
幸せな時を、ベッドサイドで目覚ましの秒針が刻む音が聞こえる。
時の止まる魔法があるのなら、今すぐそれをかけたい。
本当にこの一時が幸せだったから。
「ドラコ」
彼を夢から呼び戻すつもりはないので、ほとんど自分にしか聞き取れない声で囁いた。
「好きだよ。」
想いを言葉にして伝えることは、こんなに幸せなことだなんて誰も教えてくれなかった。
さっきよりもいっそう遠くで、落雷の音が聞こえた。けれど眠り続けるドラコには届かなかった
ようだ。
夜も、嵐も、いつか終わりが来る。
けれどその終わりがいつ来るのか分からないから、人は不安になるだけで。
「僕が君を護るよ。」
やがて来る、終わりのときまで。
珍しくハリー視点で統一してみました。動きも少ないです。
目指せ、甘々!胸焼けするほど!!胃薬が必要なほど!!!
ドラコを守ることに幸せを見出すハリー。
でもドラコだって守られてばかりじゃなくて、ちゃんとハリーを守って、助けてあげて、
二人で幸せになれる日が来る(7巻で)と信じて書きました。信じるものは救われる・・・・・・!!(ハズ)

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