コマドリ、クロウタドリ、ウタツグミ
小鳥のコーラスが春の近いことを告げている。
そしてそのさえずりは、優しい想いを告げるようにと囁いているかのようで。
KISS in the Bed
細く開いたドアの隙間から中をうかがう。
中は思いのほか明るく、温かだった。
「入って、入って」
慎重に室内を見回すドラコの後ろから、せっかちな恋人がぐいぐい背中を押す。
真ん中にたくさんの布が丸めて置かれただけの狭い空間は、四方を重々しい石の壁に囲ま
れている。ドラコは窓一つない壁を見つめながら、背中でドアが閉まる音を聞いていた。
すぐに後ろから抱きすくめられてキュッと目を閉じる。硬い髪の毛が首筋をくすぐった。
「僕たちの秘密基地」
とっておきのプレゼントを披露するときみたいに、嬉しそうな声で囁かれた。
忍びの地図を使って見つけ出したこの部屋―――正確には忍びの地図にも書かれていない
空白の空間にハリーが疑問を持って、この部屋を探し当てたのは一週間ほど前のことだった。
ドアは普段は本物の壁とそっくり同じようにしていて、隙間を見つけ出して杖先でこじ開ける
のに苦労したが、一度からくりが分かればこちらのもの。
雑然とした物置然の場所を掃除するのは大変な作業だったが、途中で思いついてドビーに
協力を仰ぐと、ものの五分で全てを片付けてくれた。
他の誰も……ロンもハーマイオニーも、忍びの地図の作者たちだってこの部屋は知らない。
正真正銘、ハリーとドラコだけの秘密の場所だ。
「なんなんだ、これは」
抱き締められてうっかり幸せ気分に浸りかけたドラコは、さり気なく絡められた腕を解き、でき
るだけ不機嫌な声を作って言った。
「だから僕たちの秘密基地」
「違う、これだ」
指差した先の床の上には白いシーツや擦り切れた毛布、それにクッションらしきものが二つ、
ふんわり膨らんだ状態で置かれている。
「それは愛の巣」
ふざけた回答を念のため聞き返す間もなく、腕をとられてその布の山の中へなだれ込まされ
た。
「重い!」
この部屋で唯一、昼の光が差し込む天窓とご対面しながらドラコがクレームをつけた。
柔らかいクッションのおかげで身体が痛むことはなかったが、全体重をかけてのっかられた
上にぎゅうぎゅう抱き締められれば、文句の一つも言わずにはいられない。
「暴れちゃダメだよ。この木枠は古いからトゲが刺さっちゃうかも」
サラリと脅されて自分の置かれた状況を確認すると、なるほど年季の入った木目模様の板
が見えた。どうやらあの布の山は床の上にじかに重ねてあったわけではなくて、大きな箱状の
ものに入れてあったようだ。
「使ってない本棚があったから、横板を外しちゃった」
頭良いだろ、と笑いかけるハリーは見るからにご満悦だ。当人としては即席のベッドを作った
つもりなのだろう。
「ちゃんとつやつや呪文もかけておいたよ」
トゲが刺さったらどうしてくれる、というドラコの表情を見澄ましたのだろう、ハリーが先回りし
て付け加える。
「それじゃさっきは僕を大人しくさせるために嘘をついたのか」
「うーん。僕の呪文じゃちゃんと効いてるか自信がないんだよね」
ハリーは眦を吊り上げるドラコを適当にかわして、ちゃっかり彼のローブを脱がしにかかっ
た。
「おいっ! ちょ…ちょっと待て!」
焦るドラコにお構い無しに、ネクタイまでが抜き取られていく。
そりゃハリーについてきた時点で多少は予測していたけれど。そして連れてこられたのがい
わゆる『隠し部屋』だった時点である程度覚悟もしていたけれど。
なにもこんなに性急に―――……求めてこなくても!!
不意に胸の上にチクチクした感触を感じた。
「……?」
自分の薄い胸の上に、くしゃくしゃの黒髪が広がっている。ハリーがドラコの胸元に、頭をあ
ずけてきたのだ。
「…ポッター?」
クセのある硬い髪の毛をそっと撫ぜた。いつも彼が自分にするように。
「甘えてもいい?」
尋ねてくる声はすでに、甘えたがりの子供のそれだ。
「今日は甘えたい気分なんだ」
ふと、小鳥の声が聞こえた気がした。
目を上げると天窓の外側に、黒い影が見える。わりと大きな鳥だろうか、と思った瞬間、その
影が二つに割れた。
そしてまた、くっつく。
二羽の小鳥が仲睦まじく寄り添っているのだ、ということはすぐに分かった。
かすかに響く彼らの歌声に、今日がなんの日かを思い出す。
小鳥たちが春の訪れを告げ、求愛を始める季節。
好きな人をもっともっと好きになる―――
かすかに身じろぎしたハリーは自分のメガネを外した。そして邪魔なフレームがなくなったの
をいいことに、先ほどよりもさらにしっかりと、ドラコの心臓の真上に耳を押し当ててきた。
どんどん高まる体温も、早くなる鼓動も全部伝わっているのだと思うと、たまらなく恥ずかし
い。
けれど同時に心が甘く溶けていくのが分かる。ぐつぐつ煮詰められたチョコレートみたいに。
ドラコは腕を持ち上げてハリーの背にまわした。自分の腕の重みで、さらに彼の身体が密着
してきたようにさえ感じる。
ハリーの重みがひたすらに心地よくて、こうしているだけで身も心も蕩けてしまいそうだった。
たとえ深く繋がっていなくても彼はここに、自分の一番近くにいるのだと実感できる。
ハリーがあちこちから集めてきた布を詰め込んだだけのベッドの中で、彼を自分の胸元に抱
きこむ。
まるで、巣の上でつがいの小鳥たちがそうするように。
隙間なく、ぴったりと。
「今日は特別だぞ」
ツン、と尖った声を出したつもりだったけれど。
その声が最高に甘く、幸せに響いたことはハリー・ポッターだけの、バレンタインの秘密。
バレンタインのお話です。一応2人は4年生の設定です。
第二の課題をほっぽりだしてドラコとの逢引場所を見つけてるハリー。
パジャマパーティーで偽ムーディーに地図を取られちゃう前(だよな)に見つけられて良かったねヾ
甘やかしと甘やかされは紙一重なので、ハリーとドラコはお互いに甘やかしつつ甘えてるみたいな依存関係だといい
と思います。
ちなみにタイトルはベッドの「中で」ってカンジです。らぶらぶ。

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