雨は嫌いだ。
湿気で髪の毛がまとまらなくなるし。
けれど嵐はもっと嫌いだ。
まして、稲妻なんて―――
優しい雨音
ガシャーン
「ひっ」
ガラス窓を振るわせる大音響に、ドラコが短く息を呑んだ。
ゴロゴロと不機嫌そうな音を立てながら、雨雲は次の攻撃の機会を窺っているようだった。
東の空に、一条の光が走り、数秒を置いてから、再び空気を裂く振動が窓どころか建物さえ
揺り動かす勢いで、届いた。
「うぅ……なんでコイツは平然と寝ていられるんだ……」
ドラコの恨み言は横で幸せそうに寝入っている恋人へのものだった。
無神経な魔法界の英雄は、今ドラコを怯えさせている元凶を象徴するような傷跡を、乱れた
前髪の隙間から覗かせたまま、夢の中だ。
ドラコたちが普段寝起きしているスリザリン寮は、地下にある。
他寮生の中にはそれを指して、暗く陰湿なスリザリンの気質に相応しい、と謗るものも決して少
なくなかったが、案外地下というのは生活に便利な場であることを、当のスリザリン生たちは知
っている。
最初の数週間は、陽の差し込まない寝室で、時間の感覚に戸惑いを覚えることもあったが、慣
れてしまえばどうということはない。
それよりも、英国内でも特に気温の変化が激しい、このホグワーツの立地にあたり、一日、あ
るいは一年を通じ、ほぼ室温が一定に保たれやすいというメリットのほうが、はるかに大きかっ
た。
それに……地下ということは、当然、気候の影響も少ないわけで……。
ガッシャ―――ンッ
「うぁぁあッ」
過去最大級の落雷に、ドラコは思わずシーツに頭から包まった。
これだから、グリフィンドールは嫌いだ。
地上の、しかもご丁寧に塔を作って、わざわざ空模様を顕著に感じ取れる場所に、もっともリ
ラックスできる場であるべき寝室を設けるだなんて。
馬鹿と煙は高いところが好きだとはよく言ったものである。
こんな馬鹿、大嫌いだ。
それなのに、『遮音呪文は完璧だから!』なんて説得に流されて、自分の寮に帰るチャンスを
みすみす逃した自分を呪ってしまいたい。
『今日は嵐だから。』
『きっと冷えるから、一緒に寝て。』
ドラコよりもずっと体温が高いくせに、寒がりを装ったりして。
「……一緒に寝ろというのなら、お前は起きているべきだろう。バカ。」
またひとつ、雷が落ちた。
天蓋の厚い布の合わせ目から、かすかな光が差し込んで、ハリーの額を照らす。
きっと、もうすぐ、音が。
認めたくない。けれどたしかな恐怖が忍び寄る。
ドラコはそっとハリーの首筋に触れてみた……温かい。それだけで、ずいぶん心が落ち着い
た気がした。
気づけば、体は相当冷えていた。二人で包まっている羽根布団の隙間から冷気が潜り込ん
でいたのだ。
指先に感じた温かさに誘われるようにして、ドラコは更にハリーに体を寄せてみた。
そのとき、耳をつんざくような落雷の悲鳴があがり、ついで全ての窓ガラスがビリビリと音を
立てて震えた。
「ッ!」
堪らず、ドラコは目の前の体にしがみついた。
途端に、触れ合った全ての部分から感じる体温に、恐怖がすっと融解していく。
「……どうぞ、ご自由に。好きなだけ抱きついてていいよ。」
耳元で囁かれた声に、それまで冷たかったはずの耳が、たちまち真っ赤に火照ったのが分
かった。
「い…いつから起きて……」
「ずっと」
にぃっと不敵に笑いかけてくるハリーから離れようと、必死にドラコはもがいたが、いつの間
にかハリーは腕のなかに、しっかりとドラコの体を捕らえていた。
「ずっと起きてた。けど雷に怯えてるドラコが妙に可愛かったからほっといてみた」
「さ……」
最低だ!そう怒鳴りつけてやろうと思った瞬間、またしても雷が落ちた。
しかし今度は怖がる暇もなく―――ハリーが唇を合わせてきた。
「…ん…むぅ……」
何度も離れては、またくっつき、ついばむように。宥めるように。愛しむように。
甘い、甘い口付けは、ドラコがうっとりと瞳を閉じるまで続けられて。
いつしかドラコは、耳慣れない稲光も、風の音も忘れていた。
翌朝、起床時間よりも早く起こされて、半分寝ぼけたままスリザリン寮まで帰るハメになったド
ラコは、透明マントのなかで、隣を歩くハリーを不機嫌に睨んだが。
グリフィンドール塔を降りる途中、嵐がずいぶん過ぎ去り、雨が校舎を叩く音が、微かなもの
になっていることに気づいた。
「優しい音だよね。」
ハリーが、ぽつりと言った。
「昔、物置が僕の寝床だったとき、嵐のときは僕も怖かったよ。」
僕もってなんだ。僕『も』って。別に僕は怖がっていたわけじゃない!
そう言ってやりたいところだったけれど、さすがに昨夜、ハリーに助けを求めるようにしがみ
ついていたことを思い出すと、あからさまに反論もできなくて。
「でもね、朝がくると雨の音が凄く優しい音になっていて。それは好きだった。」
君は?と、問いかけられて。
無視してやろうかとも思ったが、つい、口が滑った。
「―――嫌いじゃない。でも嵐は嫌いだ・・・・・・怖いわけじゃない。嫌いなんだ。」
わざわざ付け加えたら、ハリーが苦笑を漏らしたので、逆効果だったことが分かった。
「大丈夫。嵐のときは僕にくっついてれば怖くないって、昨日証明されただろ?」
「―――ッ!!」
頭にきて、ドラコは思い切りハリーの足を踏みつけてやった。
フラミンゴのように片足を抱える、無様なハリーを見ないですむように、視線を窓の外にやる
と、雨雲を通して、白々と太陽が辺りを照らしつつあった。
雨音はまだ、続いていたけれど。
ブログにつらつら書き始めたら微妙なところで終わってしまったので、付け足したりして再アップしました。
嵐が丘とかでもおなじみのイギリス・嵐の夜ですよー(安直)
ホグワーツはイギリスの中でも北のほうにあるっぽいので、秋〜冬は特に寒そうです。
ダーリンはハニーに風邪をひかせないように、しっかりぎゅうvvして寝てください。

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